BKK発★第2024便★「思わずフンガイ! 鳥爆弾に抱きつきスリ! ご難続きのパッポンへの道」
【BKK⇔HEAVEN⇔HELL】
『Oriental's Express Air U-40 深夜最終便』
沢田ヒデカズ・藤井タクヤ 共著
★第24便★「思わずフンガイ!
鳥爆弾に抱きつきスリ!
ご難続きのパッポンへの道」
■「KYOHA OMISE DE AIMASYO 8JI DESU TINA」
今から2時間ほど前、昨夜のうちに、こっそりと送ってあったショートメールの返事がティナから届いた。
彼女に電話をせず、メールを“こっそり”送ったのには訳がある。実はこの4日間、彼女はバンコクにやってきた日本人の“上得意客” とベタで一緒にいたため、“営業時間中”は電話に出られない状況にあったのである(写真/ある女のコが見せてくれた丸見え流出動画。ティナではありません)。
「それにしても随分、日本語がうまくなったよなー」
オレは、これまでの3年間に彼女が送信してきたメールを読み返してみた。
「KONNICHIWA PLEASE CALL ME THIS NUMBER 083-777-……」「ONEGAI ARIMASU SUMIMASEN……」「DENWA SITA? KONO NUMBER DESUYO OYASUMI!」etc――。
これまで保存してあったメールを時系列に読み返してみても、その進歩を窺うことができる。
ティナを贔屓にしている日本人の上得意客が知っているかどうかは分からないが、実は「高校を卒業時までは教師になりたかった」と言う彼女は、日本語よりも英会話のほうが堪能であり、オレが彼女と知り合った頃は日本語と英語のチャンポンで会話をしていた。だが、今では英語よりも日本語のほうがうまくなり、会話だけではなく、ローマ字による作文まで上手にこなすようになった。
それもそのはずである。彼女は、ほとんど毎日、『キングキャッスルⅡ』の店内か、ケータイによる国際電話で日本語の会話をし、1ヶ月に十数人もの日本人とボディートーキングをしているのである。多くて週2日しか英会話教室に通っていないオレに比べ、習熟・上達のスピードが圧倒的に違う。
ちなみに、彼女が知っている日本語のボキャブラリーの中で、思わず驚かされてしまった言葉をいくつか挙げてみると、「定期メンテナンス」と「修理」、「残業」と「遅刻」、「選挙」と「小泉」、「盆栽」と「年金」、「卒業」と「大学生」に「貧乏」。そして「巨乳」に「空気読めない」などなどである。こうやって眺めてみると、どんな日本人男性が彼女を通り過ぎて行ったのか、その一旦が窺える(写真/『ソンブン シーフードレストラン』を訪問した際の小泉純一郎元首相)。
■時刻は18:00。指定の20:00にはまだ早い。だが、特にやることもない。
「どうすっか?」
売れっコで働き者のティナはアポを取るのも難しいうえ、遅刻でもしたら、あっという間に他のお客に取られてしまかもしれない。そうなったら、今晩は、いや、今回の滞在では1度も会えないかもしれない。
「じゃ、屋台で軽くメシでも食いながらビールでも飲んで、それから行くか……」
オレは彼女へのお土産と、前回撮ってあげた写真に、これまで書き溜めてきた彼女のインタビュー原稿をウエスト……、おっと! いけない! それと破れた時に備えてコンドーム2個! をウエストポーチ(古臭くてダサくてゴメン!)に入れてホテルを出た。
■BTSのナナ駅に着くとホームはちょうどラッシュアワーで、帰宅するOLやビジネスマンでごった返していた。
「うーん、じゃ、空いてるほうに乗ってくか……」
どうやらシーロム線との乗換駅となるサイアム駅方面のほうが乗客は多そうである。
「じゃ、アソークで乗り換えて、地下鉄で行くか……」
今日はナナ駅からBTSを乗り継いでサラディーン駅を目指すのではなく、アソーク駅で降り、スクンビット駅から地下鉄(MRT)に乗り換え、シーロム駅からパッポンに向かうことにした。
■BTSと地下鉄を乗り継いで約20分。エレベーターで地上に出ると、シーロム駅の出入り口には、同時多発爆弾テロ(2006年12月31日)の翌日から配備された警備員が、いつものように、ユルくてイージーな荷物チェックをしている。
そのユルさといったら、この上ない。そのレベルは神宮球場のペットボトルのチェックか、カメラ付きケータイやコンパクトデジカメはスルーで、危険物や録音機材が入っていないかどうかだけをチェックしているコンサート会場くらいのレベルである。
「この程度のチェックで爆弾テロを未然に防くことってできんのか?」
オレはいつも不安に思う。だが、やらないよりはマシだし、犯罪抑止の一定の効果があることも認める。もし、万全を期して空港のように荷物のX線検査を実施し、乗客1人1人を隅から隅までボディーチェックしていたら、それこそ行列が長くなってしまい、みんなイライラして大ヒンシュクもんだろう。
実際問題としてこのレベルでも仕方がない。現実と限界と効率とはそういうものだ。だが、だからこそ、ここはテロのターゲットになり得るような気がする。
■ま、そんな神経質な心配はさておき、時間にヨユーがあるとは言え、ティナとの再会に入れ込み、先を急ぐ今のオレにとっては、足元の“タイ式歩道”のほうが問題である。そう! あのタイでは当たり前のガタガタでデコボコの歩道である。というのも、オレは滞在中、必ず1~2回、このデコボコ歩道に躓き、捻挫をするからである。
足元に注意しながらサラディーン駅の真下を進んで行く。時計を見ると時刻は18:40。
「おーーーっ! OLさんがゴロゴロおるやん! いやー、フツーのタイレディーもええね!」
オレは鼻の下を伸ばし、道行くOLさんたちのスケスケブラウスの胸の膨らみだの、ピッタリスカートのお尻だのをジロジロ見ながら歩いていた。
と、その時だった――。
「ベチャ! うん?……」
額のあたりに微かだが確実に水滴が当たったような感触がする。
「あれ??……、どうした???……」
思わず空を見上げてみるが……、雨が落ちてきた様子はない。そこで恐る恐る額を手で触ってみると……。
「あっちゃー! やられちゃったよーっ!」
額を拭った手には真っ白いモノが付いている。そう、鳥の糞が頭を直撃していたのである。
「まいったなー」
下をよく見ると胸元にも白い糞が付いている。
「ありゃりゃー。こりゃ、髪の毛にも付いてんだろうなー……」
ウエストポーチから消毒用を兼ねて持ち歩いていたウェットティッシュを取り出す。
■「それにしても鳥の糞に当たったことなんて1度も無かったのに、“よりによって”何でだよー……。あーあー、ツイてねーの……」(写真/サラディーン駅にいる占い師のオバはん。小梅太夫みたいなスゴいメイクに、怒りオヤジみたいな文言が並ぶ看板)
些細な事ではあるが生まれてこのかた37年。我が身を襲った初の不運に思わず天を仰いだ。すると、視線の先にあるものが入った。目の前には街路樹がある。後ろを振りかえると真上にも……だ。
「うん? 待てよ……」
それまでクルマの騒音とティナの事で気が付かなかったが、街路樹をよく見るとたくさんの鳥たちが、ピーピー鳴きながら羽を休めているではないか。
「なるほど! そうか! そーゆーことか! テロに遭遇するって事はこーゆー事なのか!」
オレは極めて私的に合点がいった。
「鳥の糞が命中した事もバンコクでテロに遭遇する事も、確率から言ったら単なる偶然じゃなくって必然なんだ。『ツイてねーな』だの『よりによって』だのと言ってる場合じゃねーんだ……」
つまりこういう事だ。鳥は昼間は飛び回り、夕方、羽を休める緑地がたくさんあれば、鳥たちは分散するが、緑地の少ない都会の鳥たちは、夕方になると羽を休めに駅前や公園に植えられた数少ない木に群がる事がしばしばある。バンコクも東京各所をはじめ、津田沼駅前などと同じで、ここの鳥たちは必然的にこの歩道の街路樹に集まった。
そして、ノー天気な観光客の1人であるオレは、「久々にティナとしちゃおうかなー、ムフフ」などと、一寸の警戒心も緊張感のかけらも無い状態で、しかも、「ネエちゃん、ええケツしてまんなー。やっぱバンコクってええわー」などと注意力ゼロのまま、鳥の鳴き声には、まったく気付かず、街路樹の真下を歩いていたのだ。
要は「糞爆弾を抱えた鳥の群れ」が集まる「危険な時間帯」に、都会の数少ない緑である「危険地域」に「油断したまま」突っ込んで行ったしまったわけだ。これでは生涯で1度も無かった糞爆弾攻撃に遭遇しても当たり前である。
以上の例えが分かりにくくて申し訳ないが、何に合点がいったか、もう1度説明すると――、今もなお、この国の南部ではイスラム過激派組織による放火、爆破、銃撃といったテロ活動が続き、「本物の爆弾だのマシンガンを持った連中」がゴロゴロおり、しかも、バンコクでは一昨年のクーデター以降も愉快犯を含む爆弾テロが続いている。そんな「不安定な時期」を脱したとは言えない中、年がら年中、外国人旅行者で溢れているこのバンコクという街は、テロリストや反政府勢力の格好のターゲット=「危険地域」なのである。そこを浮かれ気分でノー天気にヒョコヒョコと出掛けて行き、テロの被害に遭うという事は、決して偶然ではなく、ある意味、自分が招いた必然なのだ。その確率は、おそらく東京湾で起きたイージス艦『あたご』とマグロ漁船『清徳丸』の衝突事故のそれよりも格段に高い。つまり、タイを旅するという事は、実はそういう事なのだ。
■オレはバンコクポストの記事を思い出した。現に2003年に逮捕した国際テロ組織、アルカイダ幹部の米国防総省による審問記録によれば、ヤツらはバンコクのナイトクラブを爆破し、ドンムアン空港から離陸するのエルアル・イスラエル航空機を携帯式地対空ミサイルで撃墜する計画を立てていたという。しかも、タイ以外にもオーストラリア、インド、アメリカ、そして! 日本へのテロ攻撃をも計画していたのだ。
「もし、今、この場でテロが発生したら……」
そんな目に遭ったらたまったもんではない。9.11テロの実行犯だの、イラク前大統領、サダム・フセインだの、ジェマアイスラミア(=JI。東南アジアのイスラム過激派組織)のメンバーだの、タイからの分離独立を求めてテロ活動を続ける過激派組織メンバーも、自爆テロやったって、それはそれでオッパッピーだからいいんだろう。偉大なる神、アラーのために、イスラムために、ジハードを戦って殉教していくわけだから。
だが、オレはナナに行きたいばかりに、ナタリーに行きたいばかりに、キャッスルⅡに行きたいがためにここに来ているのだ。とてもじゃないが、アラーの神と心中なんてできん。オレは堕落していようが世俗的であろうが、生きて人生を愉しみたい。
■「セクシームービー! VCD! 100B! 100B!」
シーロム通りを横切り、土産物の屋台が軒を連ねる歩道を歩く。ビアチャン(チャンビール)の広告が掲げられたパッポンの入り口までもうすぐだ。ちなみにヒデの野郎は9月の滞在時に「6枚500Bで買って来たから貸してやる」と言っていたのに、まだ、貸してくれない。
「おっと、そうだ! あの野郎、アイアンメイデンのチケット代もまだだったな……」
これもまた、テロがあっても死ねない理由の1つである。
「20B! 20B!」
バラの花を売り歩く女のコと男のコが近寄って来る。
「No! No! ソーリー、ソーリー! ノーサンキュー……」
オレは行く手を阻む2人を避け、右に移動した。するとオレを追って男のコがしつこく、にじり寄った。
「20B! 20B! 20B! 20B!」
彼はそう言いながら、さらにオレに体の目の前まで来て、ヘソあたりで花束を差し出しながら、必死にバラを売ろうとしていた
が、その直後だった!
「ソーリー……、うっ? あっ! マズい!」
オレはとっさに自分の腰を引きながら、右手でそのガキを軽く突き放した!
すると、ガキは同僚の女のコを置いて、一目散に駆け出した。その速さといったら駆け足のそれではない。それはまさしく「逃走」と呼ぶのにふさわしいスピードだったのだ!(写真の女のコは本文とは関係ありません)。
「やっぱそうか! ヤツの密着、ゼッタイおかしいって!」
焦ったオレは急いでヘソ側に巻いていたウエストポーチのポケットをチェックした。現金やクレジットカードが入っているポケットのファスナーは……、一応、閉じられたままである。念のために中を確認すると……、
「よかった! フーーー……」
いちばん貴重な現金もカードもそのまま。無事である。
置き去りになった女のコはバラを買ってくれると思っているのか、まだそこにいる。だが、このコに構っている場合ではない。彼女も共犯者かもしれないのだ。
続いて、左右のサイドポケットを開け、中を確認する。
「よし! OKだ」
そして前面のポケットを確認すると……、
「あっ! 半開きじゃん!」
ファスナーを開けて中を見る。
「あれ!?」
指を入れて中を探ると、
「無い! 無い!」
入れてあったはずのコンドームが2個……、無い……。さっきのガキは「抱き付きスリ」のように体を密着させて、「20Bで買ってよー」などとつぶらな瞳で懇願しながら、一瞬のうjちに手探りでポケットの中身、コンドームをスッていったのだった。
鳥の糞爆弾に続いて花売り小僧の抱きつきスリ――、この国を旅するという事は、やっぱ、こういう事なのである。
■「あーあ、まったく油断もスキもありゃしねーな。でも、これじゃティナとデキねーじゃん……。しかも、あれ、極薄タイプのとっておきだったのに……、あーあ」
オレはジェクスの0.03ミリのコンドームが盗まれた事への無念と、1年8ヶ月前のティナのボディーラインを思い浮かべながら、パッポンのお土産屋台の中を突き進んで行った。
「でも、まー、いっか。今日もティナとはH無しで食事と話だけかもしんないしな……」
そうやってオレは自分を納得させた。
ティナが待つ『キングキャッスルⅡ』のネオンが見えてくる。
「でもやっぱ、あのクソガキ、ムカつくな!」
納得はさせられたが、オレの怒りは完全に収まってはいなかった。盗まれたのはたかだかコンドーム2個ではあるが……。
「うーん、ムカつく! でも、あんなガキじゃ、チンチン小さいだろうし、使い方も知んねーだろ! そうだそうだ! そうに決まってるじゃんか! ザマーみやがれってんだ! まーせーぜー、水風船にでもして、『爆弾だー!』とかなんとか言って、戦争ごっこでもしていやがれってんだ! クソったれっ!!」
そう心の中で花売り小僧をドつきながら歩いていたら、勢いがついて、キャッスルⅡの目の前に到着してしまっていた。
「あれっ!? 待てよ。ひょっとするとティナよりも先にジェシーが来ちゃうかもしんないじゃん」
オレは冷静さを取り戻し、肝心な事を思い出した。ジェシーとはキャッスルⅡで働くウェイトレスでオレの宿敵である。
「ヤバい。ティナに会う前にジェシーに見つかったらオジャンだよ。地雷を踏んだらサヨウナラになっちゃうじゃんか!」
時刻は19:00を回ったところである。
「うーん、どうすっかな? ま、とりあえず、飯、喰ってからにすっか!」
<以下、次号>
~See You Again @ NEXT FLIGHT! To Be Continued!~
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